小学生の時、東京駅を次々と発車していくブルートレインを撮りに来た東京駅10番線ホーム。ここから、今日、大阪行き寝台急行「銀河」が最後の旅に出る。

東京駅に到着したのは21時過ぎ。ホームへ向かうと、すでにコンコースから普段とは違う空気に包まれていた。

行き交う人が皆足を止め、電光掲示板をカメラに収めていく。「なに、なに? 芸能人?」と、事情を知らずに集まってきた人も多かったが、「50年以上走り続けた歴史ある夜行急行が今日でなくなるんですよ」と説明すると、多くの人が「それなら」とケータイを取り出した。とても鉄道に興味のなさそうな人も多く、鉄道趣味が、少しずつ、市民権を得てきたことを感じる。

22時過ぎに、ホームに上がった。この1カ月で、3度目の10番線。しかし、今日の雰囲気は明らかに普段とは違う。すでに、ものすごい人。テレビや新聞社も大勢来ている。

10番線ホームにある発車時刻表は、いまだにどことなく「汽車駅」の面影が残っている。かつては、ここに急行「東海」、寝台特急「さくら」「みずほ」「はやぶさ」「富士」「瀬戸」「出雲」「紀伊」といった優等列車がずらりと並んでいたが、今では見る影もない。

急行「銀河」の廃止は、単に一列車の廃止に留まらない。東京駅から急行列車が完全に消えることを意味する。都内に入る急行列車は、「能登」を残すのみ。それも、北陸新幹線が開業するまでかもしれない。

22時19分、普段より4分早く、101レ急行「銀河」大阪行きが入線してきた。ものすごい人。歓声と拍手、そして怒号。この手のイベント時は、必ず怒鳴り出す心ないファンがいる。やめてほしい。

「あれ、栗原さん」
自分を呼ぶ声に気づいて振り返ると、木村裕子さんがいた。今日はオフだそうで、完全に一ファンとして見送りに来たそうだ。

横見さんと牛山さんのサイン会の時もそうだったが、彼女は私服でいる時は基本的にとてもおとなしい。 この日はさすがに「木村裕子さんですか」などと話しかけられることもなく、完全に1人のファンと化していた。

神田側についていた機関車を、進行方向である品川側に付け替える「機回し」。かつては、10番線と12番線の間にホームのない「11番線」があり、そこを通って機関車を回送していた。しかし、11番線以降が新幹線のホームに飲み込まれてしまった今は、9番線ホームを使っている。このため、10番ホームに寝台列車が入っていると、9番線に電車を入れることができず、これも寝台列車がJRに嫌われる一因となっていた。

このマークも、今日で見納め。「急行」の文字がまぶしい。この日は、ファンが手作りした「さよならサボ」もゲリラで5分ほど貼られた。大変な人だかりになったのは言うまでもない。

「銀河号、発車2分前です!」
ファンが増えてからか、いつものことか、銀河が発車するときは、5分前から1分ごとに放送が流れる。これを聞くのは今年3回目だが、毎回頭をよぎる妄想がある。
「各線、出発信号機確認しろ! レールファンは待避急げ! 101、発車1分前!」
「銀河(そら)か……」
……いかん、そんなことを考えている場合ではない。
その時が来た。23時。発車ベルが鳴り終わる。大変な人出だが、奇跡的に定刻に発車するようだ。
「乗車終了!」
「列車が動きます! 下がってください!」
「銀河号、発車!」
ピィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
長い、長い汽笛が鳴り響き、「銀河」は動き出した。ゆっくり、ゆっくりホームを離れていく8両+1の青い車体。もう、この車両は東京には帰ってこない。
「ありがとう!」「お疲れさま!」
拍手に混じって、ヲタの人たちの声が聞こえる。普段なら、どうかと思ったかもしれないが、今日ばかりはちょっと胸に迫るものがあった。

最後の旅路に出る最終「銀河」
東京駅に残るブルートレインは、「富士・はやぶさ」の一本のみ。それも、長くて来年までの命だ。嗚呼、ブルートレインブームは今何処。東海道から、夢が消えていくなあ……。
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