記憶に残る店
旭川から特別快速「きたみ」で網走に来た。10年ぶりの訪問だ。
19時半に着いたが、正月とあって、町はひっそりと静まりかえっている。今日も開いている日を探して、繁華街に出た。
網走を訪れると、毎回、目を向ける店がある。14年前、ユースホステルを使って北海道を一周していた時に入った、海鮮料理の店「S」だ。当時愛用していたガイドブックに載っていた。
その時の思い出。
友人と二人で店に入るなり、「いらっしゃいませ」も言われずに小上がりに座るよう促された。老夫婦と、息子なのかアルバイトなのか、若い男性の3人で切り盛りしているようだ。それなりに、込んでいる。
「荷物は、階段の下!」
空いたスペースに荷物を置こうとすると、いきなり怒鳴られた。邪魔になるとも思えなかったが、逆らってもしょうがないので指示に従う。
気を取り直してメニューを開くと、似たようなどんぶりものが並んでいる。お茶を持ってきたおばさんに、お勧めを訊いてみた。
「全部、お勧めです」
ぴしゃり。それ以上、何も言わない。しょうがないので、予算に合いそうな、適当などんぶりを注文。ついでに、瓶ビールを頼んだ。
「それだけ?」
おばさんからため息混じりに言われ、呆然としていると、若い男性がサッポロビールを持ってきた。
どん!とビールを置き、ガチャガチャとグラスをふたつ。栓抜きをぼんっと投げた。そして、僕を睨みつけて一言。
「つがねえよ」
出されたどんぶりに少しだけ箸をつけ、さっさと店を飛び出したのは言うまでもない。
それから何度か網走を訪れたが、そのたびに「S」が今もやっていることを確認し、信じられない思いだった。常連に対しては、違った対応だったのかもしれない。
ちなみに、「S」を紹介していたガイドブックは、数年後、新入社員の僕が編集担当に就くことになる。すぐに、店を差し替える手配をとった。
さて、10年ぶりに「S」を見に行くと、さすがに店は変わっていた。郷土料理の店「H」……。しかし、間接照明などを使って現代的にはなっているが、船の舵を飾った建物自体は「S」時代そのままだ。入ってみようかとも思ったが、その勇気は出なかった。
アーケードに出ると、時々空車のタクシーを見かけるくらいで誰もいない。適当な店に入り、イカの姿焼きで夕食とした。さっきレシートを見たら、一品間違っていて100円多く払っていた。網走の店には、とことんツキがないのかもしれない。
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