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2007.02.28

急性腰痛症の顛末2 救急車搬送記

「消防ですか、救急ですか」
「救急をお願いします」
「はい、それでは住所を町名からお願いします」

 23日、金曜の17時過ぎ。僕は、玄関のすぐ近くに立って119番に通報した。ここまで来るのに、10分以上。少しでも身体を動かすと身体が痛む。

「どのような症状ですか?」
「ぎっくり腰なんですけど……」
「はい、ぎっくり腰、了解しました。すぐそちらに向かわせます」

 ぎっくり腰での救急出動は珍しくないようだ。ほどなくPHSが鳴った。

「こちら○○救急隊です。ただいまそちらに向かっておりますが、到着までに大体の状況を把握させてください」

 症状について、いくつか質問され、こちらも淀みなく答える。

 5分ほどして、遠くから救急車の音が聞こえてきた。近所には、子供の頃から知っている人も大勢いる。あまり見られたくないな。おそるおそるドアのところまで進むと、救急隊員が階段を上る気配がした。

「くりはらさんですね。私もね、腰をやったことがあるんです。それではね、ご自分のペースで、ゆっくりで結構ですから、下まで歩いてみましょう。慌てなくていいですよ」

 担架は階段の下にある。僕は身体を揺らすだけで激痛なのだから、下手に肩を貸したりするより、ゆっくりでも自分で歩いた方が楽なのだ。

「はい、それでは私が鍵をかけます。火の元は大丈夫ですか。見ていてください……はい、鍵を閉めましたね。開きません。では、こちらのポケットに入れさせていただきます」

 隊員は両腕を広げ、しかし僕の身体には触れずに背後に立った。僕が転倒しそうになった時の備えだ。

「くりはらさん、真っ直ぐ立っていれば楽でしょう」
「はい、でも少しでも上半身を傾けると痛むんです」
「わかります。本当に、我々のことは気にしなくていいですから、ゆっくり、ゆっくり進んでください」

 一歩、一歩、おそるおそる階段を下りる。足が地に着くたびにしびれるような痛みを感じるが、身体を傾けていないので我慢できる範囲だ。人間、直立姿勢の時が一番腰に負担をかけないということがよくわかる。

 階段を下りきると、担架が用意されていた。ここに横たわるのに、また一苦労。腰に負荷をかけない姿勢を探りつつ、左手を担架につき、少しずつ、少しずつ、身体が担架と平行に近づくように傾けていく。最後はどうしても身体を曲げざるを得ず、一瞬強く痛んだ。

 狭い担架だが、仰向けに横たわればすっと身体が楽になる。腰の位置に厚いクッションがあり、人間工学に基づいた構造らしい。幅は50 cm少々と思われ、「20系寝台よりちょっと狭いかな」などとマニアなことを考えてしまう。青空を見上げる姿勢となり、気持ちがいい。

 大通りまでガラガラと運ばれ、いよいよ救急車に搬入だ。最後は隊員の手によって持ち上げられるのだが、実にスムーズ。衝撃は全く感じない。さすがはプロだ。

 搬入が完了すると、早速救急車は走り出し……と思いきや、そうではなかった。行き先が決まっていない。

「くりはらさん、どこかかかりつけの病院はありますか」
「普段はK診療所に行くことが多いですが、N総合病院でもいいです」
「いやね、N総合病院にさっき電話したら、ベッドがないっていうんですよ」
「入院の可能性もあるということですか」
「うーん、私からは何とも言えないのですが」

 隊員の顔は笑っている。万が一のことを考えて、ということのようだ。ただ、僕としては一泊くらい入院になったほうが、医療保険が下りてありがたい、気もする。

「新宿の××大学病院はどうですか」
「あ、そこなら私の仕事場にも近いのでわかります」
「帰る時大変じゃありませんか」
「タクシーなら1000円ちょっとですから、大丈夫です」

 こうして××大学病院に電話をし、受け入れOKの返答をもらった。救急車も大変である。

 搬入から約5分。救急車はピーポーパーポーとサイレンを鳴らして走り出した。右腕で血圧を測り、たぶん脈を取るのだろう、左手人差し指にクリップのようなものをはめる。こちらは、横になっていればほとんど痛まないし、だんだん申し訳なくなってくる。

『救急車赤信号を通過します。しばらくお待ちください』

「あの……、命に別状はないんで、赤信号とか通過しないでもいいんですけど。あと、サイレンも」
「いやいや、そういうわけにはいかないですよ(笑) 」

 救急車というのは、乗り心地がいいものだ。患者にショックを与えないように、特別なサスペンションを装備しているのかもしれない。担架も寝心地が良く、このまましばらく寝ていたい気もしてきた。

 だんだん和んできて、胸からぶら下げたW-ZERO3esについて雑談したりするうちに、病院到着。僕は仰向けのままなので、状況が全くわからない。廊下をガラガラ走り患者や看護師が大勢いるところに出た。目の前に見える扉が、整形外科の診察室のようだ。

 若い男性の医師に症状について詳しく訊かれ、背中を押して触診される。足に痺れはありませんか。内臓の病気の経験はありますか。背中の右側がやけに凝っていますね……。右側が凝っているのは、おそらくカメラマン病だろう。重いカメラバッグを担いで活動するうちに、身体がゆがんでしまうのだ。

 触診による暫定の診断が下ったところで、3人の救急隊員は帰っていた。皆さんどうもありがとう。出動からここまで約40分、人的負担は相当なものだ。このサービスが無料というのは、今まで当たり前と思っていたが、大変なことである。

 痛み止めの薬をもらい、ベッドに横たわったままレントゲン室に運ばれて今週2度目のレントゲン撮影を行った。そのまま、診察室の脇にある休憩スペースへ。入院まではいかない患者が、一時的に休む場所らしい。一人分ずつカーテンが引かれ、周囲の様子は声しかわからない。隣から、小学生の母子らしい二人の話し声が聞こえる。「後で安楽亭に行こうよ」「お母さんペッパーランチがいいな」。たしかさっき、医師から「脱腸です」と診断されていたはず。息子さんの無事を祈った。

 先ほどの医師が来て、レントゲン写真を見ながら病状説明。要するに典型的なぎっくり腰なので、薬を出すから家でゆっくり休めとのこと。痛み止めがなかなか効かないので、しばらくここで休ませてもらおうと思ったが、5分おきに年配の看護師が怖い顔で覗き込むので、無理矢理起きた。やっぱり痛いので、コルセットを付けて帰路につく。

 結局、あれだけ救急隊の手を煩わせて、受けた治療は痛み止め一本とコルセット1個だけ。なんだか申し訳ない気分である。

 ぼさぼさの頭とフリース姿で痛みを堪えながらタクシーに乗り、通報から約3時間で帰宅した。タクシーに乗れたということは、痛み止めが効いたのだろう。この後また起き上がれなくなり、どうにか痛みが減って来たのは、日曜の夜になってからだった。

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Comments

私も腰痛持ちでぎっくり腰も何度かやってますが
今回の栗原さんのはかなりの重症で大変でしたね。
無理なさらず、どうぞお大事に!

温め話~
首をひどく捻挫しながらも、せっかく霧島に来たからと
(お医者さんにはダメと言われていたのに)
入浴したら、
激痛で一睡もできず、寝返りもできず悲惨な旅行に。
四十肩の激痛が1年続いたときは、
温めるのと冷やすのでは
『気持ちイイ方でいい』との友人の整形外科医談。
急性と時間が経過しているものの違いですね。
(四十肩はある日突然痛みが消えました)


Posted by: ゆきんこ | 2007.02.28 at 19:09

ゆきんこさん、こんにちは。ありがとうございます。
世界ノルディック行けなくて残念でした……。

いやー、ほんと、初期の段階では暖めちゃダメだ!と思いました。
痛みの種類は、寝違えた時や「ぎっくり背中」と同じなんですが、さすが身体の支点だけあって、痛みの強さと頻度は比べものになりませんでした。

まだ、靴下はくのに苦労しています。

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